LOGIN「キャルル丸、手加減は要らないわ。本気で来なさい」
ベルフラウはダガーを両手に構えており、キャルル丸を睨みつけている。
「きゃるる、きゃる!」
キャルル丸の瞳が鋭く引き締まる。
午前七時過ぎ。
王都アランクルスの道具屋前の大通りで、ベルフラウとキャルル丸は対峙していた。
乗り物コロシアム前の特訓である。
少し前に、キャルル丸のレベルは30に上がったようだった。乗り物コロシアムで勝てるようにウミが協力をしたのだとか。おかげで超越スキル、エボリューションを習得している。だけど、どこで誰が見ているかも分からないこの場所で、エボリューションを使ってはいけなかった。キャルル丸の切り札である。
道の脇には仲間たちが並んでいて、これから始まる決闘を注視している。
ステータス画面を操作してベルフラウが決闘を申し込んだ。
「きゃるっ」
キャルル丸が承認を押す。
ドンと音がした。
――決闘始め
「キャルル丸、手加減は要らないわ。本気で来なさい」 ベルフラウはダガーを両手に構えており、キャルル丸を睨みつけている。「きゃるる、きゃる!」 キャルル丸の瞳が鋭く引き締まる。 午前七時過ぎ。 王都アランクルスの道具屋前の大通りで、ベルフラウとキャルル丸は対峙していた。 乗り物コロシアム前の特訓である。 少し前に、キャルル丸のレベルは30に上がったようだった。乗り物コロシアムで勝てるようにウミが協力をしたのだとか。おかげで超越スキル、エボリューションを習得している。だけど、どこで誰が見ているかも分からないこの場所で、エボリューションを使ってはいけなかった。キャルル丸の切り札である。 道の脇には仲間たちが並んでいて、これから始まる決闘を注視している。 ステータス画面を操作してベルフラウが決闘を申し込んだ。「きゃるっ」 キャルル丸が承認を押す。 ドンと音がした。 ――決闘始め ベルフラウが右手を掲げる。「メイクアップ」 小さな手鏡が生まれて虹色の光りを放った。アジリティが上昇する。「きゃるるるぅ!」 キャルル丸がおたけびを上げて走り出した。その両手両足にはスカーレットクローが装着されている。ベルフラウに向けて真っ直ぐに突進してくる。一見隙だらけだ。:キャルル丸は猪突猛進ですw:こんな隙だらけな攻撃いいの?:行けキャルル丸、そこだ!(あのねぇ、キャルル丸) ベルフラウは呆れたように吐息した。キャルル丸は無防備すぎである。(もっと相手の出方をうかがわないと) ウミが両手を口に当てて応援している。「キャルル丸、頑張るですよー!」「キャルル丸、負けない」 アイギスも力強くつぶやいた。 主人のニキが固唾を飲んで見つめている。 晴恋は両手のひらを握り合わせていた。 キャルル丸がどたどたと近づ
翌日の早朝。 王都アランクルスは人々の活気に満ちていた。そびえ立つ王城を中心として、赤い屋根の家々が円形状に広がっている。地面は綺麗な石畳であり、水路もあった。水路は真っ直ぐに港の方へと注いでいる。馬車や牛車が行き交っていた。プレイヤーたちが石畳に絨毯を広げており、露店を開いている光景もあった。武器や服、バフ料理や回復アイテム、素材アイテムなどを売っているようだ。こんな朝早くからご苦労なことである。以前にトウマが言っていたことをウミは思い出していた。プレイヤーたちには、ゲームのヴァルを円に換金して生計を立てている者も多いらしい。商人は、人が通りかかるたびに「いらっしゃいませ」「便利なアイテムはいかがですか?」などと声を張っている。(綺麗な石ころも売っているのでしょうか?) 露店を覗きたい気持ちが、ウミの心の中でうずうずと高まる。(絶対に後で見に行くです) ウミとアイギス、キャルル丸は喫茶店リヴァにいた。甘いコーヒーを飲みながら、ステータス画面を操作している。キャルル丸は桶に入った甘いミルクを飲んでいた。 配信はしていない。 テーブルの椅子に座りながら、ウミが話しかける。「アイちゃん、わ、わわ、ワールドチャットをやってみるですぅ」「うん」「ワールドチャットって、私、初めてですぅ」「大丈夫」「きゃるるぅ」 昨夜、みんながログアウトした後でウミは四枚の絵を描いた。武器制作のミニゲームである。だけど三枚は大失敗した。デッサンアイディアは乗り物武器しか無いため、出来上がったのはスカーレットクローが一つと錆びた牙が三つである。SランクとEランクだ。スカーレットクローをワールドチャットで売れば、大金を入手できるはずである。 ウミが聞いた。「だけどアイちゃん、いくらにしましょう?」「200万ヴァル以上で売れると思う」「そ、そんなにしますかね?」「うん。もっと上げてもいいかも」「……じゃ、じゃあ、に、220万ヴァルにしましょうか?」「
アパートに帰宅して、部屋で真帆たちはくつろいでいた。 すでに夕食を終えている。お風呂も済ませた。 ピンク色の部屋だった。カーペットもカーテンも、布団カバーまでピンク色である。それは真帆のお気に入りのカラーだった。最近はじっとりとしていて暑い。なので、冷房をつけていた。真帆とユウマはテレビを見ることもせずに、二人の時間を楽しんでいる。いま、ユウマが真帆にマッサージをしてくれていた。足の裏を両手で握り、優しく揉み込む。時々、つぼを強めに押した。痛気持ち良くて、真帆は声を上げる。「いたたたっ」「ここはどうだ?」「ちょっとユウマ、きついわ」「足の裏が凝っているな。だいぶお疲れのようだ」「もうちょっと、手加減しなさい」「こっちはどうだ?」「もう、ダメよユウマ」「足が温かくなってきたな」 ユウマがにんまりと笑顔を浮かべる。 真帆はちょっと開放的な気分で足を揉まれ続けた。この後はいつも通り、二人で愛を育む。だけど今日のユウマはマッサージが長い。この男、最近は揉むのが上手になってきた。毎日マッサージをしてくれているせいだ。 ふと、枕元で真帆のスマホが鳴った。「ごめん、ユウマ、電話だわ」「そうか」 ユウマが真帆の足を離す。 スマホを手に取ると、母親からだった。真帆は緊張でお腹が痛くなる。せっかくの二人きりの時間だったのに、またあの話だろうか? マットレスに腰掛けて電話に出た。スマホを耳に当てる。「もしもし、お母さん?」「真帆か。ごめんね、何度もかけて」「うん、大丈夫」「真帆、朝の話の繰り返しなんだけれどね」「うん」「今日のお昼も、高梨さんの家から電話があって、賠償金の支払いを催促されたんだわ。それでね、お父さん、自分の友達を片っ端から当たって、お金を貸してくれないか頼み込んだんだ」「うん、それで?」「なんとか50万円を貸してくれるって人が現われたけれど、それだけでね。
夕食後の露天風呂。 いま、晴恋とニキで混浴温泉に入っている。 身体には白いバスタオルを巻いていた。入浴用タオルであり、マナー違反ではない。すでに身体と髪は洗ってある。お湯の中に身を沈めながら、晴恋はどぎまぎとしていた。魔導具の灯りに照らされて、水面はキラキラと輝いていた。お湯は少しぬるくて、いつまででも入っていられそうだ。肌当たりが柔らかいお湯である。 他に客はいない。 夜空に浮かんでいる三日月だけが、二人のいちゃいちゃを覗き見ていた。(何だか、大胆な気分になっちゃいます) 晴恋の隣では、ニキがおちょこで日本酒を飲んでいる。湯舟酒のおぼんが水面にぷかぷかと浮かんでいた。晴恋はおしゃくをしていた。 ニキが赤ら顔でつぶやく。「晴恋は可愛いさ」「くぷぷ……どのぐらい可愛いですか?」「ベルさんよりも可愛いさ」「本当ですか?」 胸がドキりと高鳴る。 とびきりに嬉しかった。「本当だよ。ギルドでナンバーワンさ」「それは言い過ぎです」「言い過ぎじゃないって。ウミちゃんよりも、アイよりも、キャルル丸よりも可愛いさ」「くぷぷ、キャルル丸と比べるんですか?」「世界で一番可愛いってこと」「もう、ニキさんったら」 晴恋はニキにお酌をする。 ニキがおちょこを差し出した。「晴恋も飲みなよ」「飲みましょうか?」 晴恋はおちょこをそっと掴み、すするように飲んだ。おちょこを置く。「今日は倒れるまで飲むさ」「倒れたらダメです」「どうしてだい?」「どうしてって。それは、これから、部屋で……」 ニキは気づいたようで、口角をにんまりとつり上げた。 晴恋は恥ずかしくなって右手を上げる。水面がちゃぷんと音を立てた。「もう、ニキさんのいじわる!」
遊園地の出口付近では福引きが行われていた。 抽選器がガラガラと音を立てて回っている。 スタンプラリーのスタンプ一つにつき一回回せるようだった。 遠くには大きな観覧車があった。ゆっくりゆっくりと動いている。海賊船のスイングは未だに続いている。先ほどまでの楽しさを思い出して、晴恋は少し寂しい気持ちになる。日が完全に落ちて夜が訪れている。夜風が吹いて、スカートの裾がはらりと揺れた。だけど七月の夜の空気は温かい。夜空では星々が語り合うように瞬いている。夏の大三角形を探してみた。その際、晴恋は流れ星を見てしまった。消えてしまった後で祈りを込める。ギルドのみんなが幸せになれますように。王城争奪戦で勝利できますように。 今、ニキが抽選器を回していた。 ガラガラと鳴っている。 ぽんと白い玉が吐き出された。「また白さあ」 白い玉は五等賞であり、ポーション一個である。すでにニキは四つのポーションを入手していた。 先ほど晴恋も回してみたが、玉の色は全て白だった。 福引きなんてこんなものである。 晴恋が口角を上げて笑った。「くぷぷ、ニキさん。五等賞ですね」「本当だよ。この抽選器、当たり入ってるのかなあ」「さあ、どうでしょう」「ちくしょー。まあ仕方無いさ」「プレイヤー様、こちらをどうぞ」 福引きスタッフがポーションの小瓶を差し出す。ニキは受け取った。 後ろに並んでいたベルフラウが声をかけた。「ニキさん、代わって。次はあたしよ」「おう。ベルさん、一等賞を引くさ」「ふふん、任せなさい」 福引きを引けるのはベルフラウで最後だった。今のところ全員が白い玉である。 ベルフラウとニキが場所を入れ替える。だけど、ベルフラウはアトラクションを回っていない。スタンプは美術館のものだけのようだ。引ける回数は一回である。 彼女が福引きスタッフにスタンプラリーの紙を見せる。「回して良いかしら」「はい
遊園地のレストラン前の石畳だった。 太陽は西に大きく傾いており、夕焼けとなっている。オレンジ色に染まっている雲が美しかった。辺りにはプレイヤーたちの人垣が出来ている。これから始まる決闘を、固唾をのんで見守っていた。酔っ払った男性が「頑張れよ! 犬のちびっ子」と声をかけている。アイギスの尻尾が不機嫌そうに跳ねた。黒い大盾を前に突き出すように構えており、顔つきは真剣そのものである。 アイギスの相手はアーティンでは無く、同伴者のリゼットだった。白い仮面が何とも気味が悪い。右手にはダガーを握っている。ベルフラウと同じジョブだろうか?(勝たないと) アイギスは唇を引き結んで相手を睨みつける。 リゼットがステータス画面からフレンド申請を送った。「アイギス。貴方、使い魔なの?」「そうだけど?」「これは舐められたものね」「どういう意味?」「使い魔なんて、AIじゃない。AIが人間様に楯突いちゃダメよ」「お前、ムカつく」 アイギスがフレンド申請を承認する。 リゼットが決闘を申し込んだ。 ドンと音がした。 ――決闘クエスト、初めての決闘に勝利する 決闘は一分間である。 リゼットが走り出した。「アイギス、私がスマートな勝ち方ってものを教えてあげるわ」「お前に教えられることなんてない!」 アイギスが黒い大盾に隠れる。 リゼットが笑うように唱えた。「スティール」 瞬間、アイギスの右手から大盾が消えた。と思ったら大盾はリゼットの左手に握られている。盗むスキルのようだ。 観客たちがどっと歓声を上げる。(嘘!) アイギスは驚愕に下唇をひきつらせた。「ひ、卑怯者!」「あら、この大きな盾、格好良いわね。だけど要らないわ」 リゼットが大盾を後ろの地面に投げる。がらんと大きな音が鳴った。 少し離れたところからウミが応
森の道へと入った。 木の葉からこぼれる太陽の日ざし。茶色い小鳥が木枝から飛び立った。落ち葉の多い地面。空気は澄んでおり、森林浴にはもってこいだ。 森の奥へとウミはどこまでも逃げて行く。その背中をテラーウルフが追いかける。そのまた後ろをトウマが追跡するという構図だ。 可愛いは正義勢:ウミちゃん逃げて! 古参ニキ:死んだと思ったらまだ生きてる。 開けた大地にたどり着くとトウマは唱えた。安っぽい木の杖を構える。 「グラヴィティライン」 トウマの杖から青黒いロープが伸びた。テラーウルフの足に巻き付いて拘束する。 「がうばうっ!」 走っていたテラーウルフは前のめりに
草原の中心に、黒い渦を巻いてテラーウルフが出現する。残忍な顔つき、漆黒の体毛、巨大な白い牙。その圧倒的な存在感に、トウマの背筋から冷や汗が伝った。 テラーウルフが高々と吠える。 「ガアルルルゥゥッ!」 ドンと音がして空中に文字が表示された。 ――クエスト、テラーウルフの撃破 「ボスだ、逃げろ!」「俺は死ぬ訳に行かないんだー!」「私はせっかくレベル3に上がったんだからね!」 ウミがすぐに反応した。その表情は恐怖に彩られており、モフモフとした尻尾がピンと立っている。勢いよくこちらを振り向いた。 「ご主人様、どうすれば!?」「ウミ、動くな」 トウマは状況を冷静に分析する
村の北出口から外へと出る。 草原地帯があった。ところどころには岩がある。そこにいる魔物はフェアウルフの一種類。灰色の毛並みをした狼であり鋭い牙を誇っている。大型犬ほどのサイズだ。 狩りをしているプレイヤー数は多く、必死の形相でモンスターと戦っていた。 「俺の、俺の宿代をー!」「私はまだ朝食も食べていないんだからね!」「や、やべえやべえ、こいつら強えぞ!」 トウマは顔をしかめた。このゲームのプレイヤーはみんな無職なのだろうか? 分からない。(そう言えば、俺も朝食を食っていない) ドンと音がして、頭上に文字が表示された。 ――クエスト、フェアウルフの撃破 隣にいるウミ
村の広場。 トウマたちは木製のベンチに並んで腰掛けていた。 ゲーム内は昼間であり太陽が出ている。近くにある桜の木が花々を満開に咲き誇らせていた。そよ風が吹いて、花びらがチラチラと地面を舞う。木枝が揺れる音がした。 大きめの梅おにぎりを、ウミが両手で持ってむしゃむしゃと食べている。モフモフと尻尾を振っており、ご機嫌のようだ。満面の笑みを浮かべている。 「美味しいですぅ、美味しいですぅ」「そりゃあ良かった」「ご主人様、ありがとうございます」「味わって食えよ」 梅おにぎり、200ヴァル。 道具屋で買ってきたものだった。手痛い出費である。 トウマは広場の光景を眺めた。中心には噴